ここまでほぼ、皓子は剣のみで勝ち抜いてきた。それは守備隊相手に術は使わぬと決めていたからではなく、ただ単に使う必要がなかったからだろう。
しかし、あの藤神を母に持ち、雷閃を師と仰いで育った皓子だ。術の資質や技能がないとも想われぬ。必要とあれば容赦なく使ってくるだろうし、それは恐らく雷撃を含むものであろうと読んだ上で、鉄片を隠し持つ等の対策を練っていたのだとしたら、豪毅もさるものと言えた。
朦々と立ちこめる白煙が晴れ、俄かに寄った雷雲が晴れると、練兵場の上にカッと陽射しが降り注ぐ。早朝から始まった仕合いは2本目にして既に、昼を迎えようとしていた。
スタミナの意味でもここらで決着をつけ、ひと息入れるべきとの同じ判断に至ったのだろう。豪毅と皓子は、ほぼ同時に技を繰り出す態勢に入り、気を練り始めた。
スッと息詰めた豪毅の丹田に、足下から吸い上げた気が金色の光球となって凝り始める。一方、額に向けて人差し指と中指を揃え剣指を立てた皓子の周囲には火花散る雷光が集い始める。
瞬きほどの間も置かず、拳大にまで膨れ上がった五つの雷球は、シュッと鋭く息吐いて打ち振るった皓子の剣指に従い、豪毅めがけて飛来した。雷球と見えた光の塊は、飛来する速度で空気との間に摩擦熱を起こしたか、たちまち蒼白い火球となって四方から豪毅に肉薄する。
その前方からのものは練った気のついでとばかり吐き出す呼気で一喝して霧散させ、背後から迫ったものは一刀の下に打ち払って、豪毅は練りに練った気塊を放った。踏み出す足の先から放たれた金色の気は、石畳を抉りながら一直線に皓子へと迫る。その光線が、過たず皓子の身を捉えたと誰もが想った瞬間、そこにあった影は掻き消え、代わりに豪毅の間近で剣を切り結ぶ鋭い金属音が打ち鳴らされた。
【続く】