「――必要が、あったのか?」
敢えて避けたり逃げたりする必要が、
昏い、昏い闇が降ってくる。黒鏖という名の男の姿をとって。――否、それは彼の姿を見る、己が胸の裡から湧き出るものなのか。久鷹にはもう、解らなかった。
全裸のまま食卓の上に磔られ、
これだけの事が終わるまで、僅か十分足らず。突き刺された両手に感覚はないが、微かに残る腕の皮膚感覚で、我が身から流れた血が机に溜まりを成す程ではないと知れる。たったそれだけの間に、この男はどれだけの血を流し、どれだけの屍を積み上げたのだろう。愕然たる面持ちのまま、久鷹は黒鏖の容貌を見上げた。
彼は手にしたシナーズ・ソードの刃を引き戻し、
すでに黒鏖と久鷹の周囲には、塁々たる屍の山が築かれている。ムッとくるほど濃密な血の香りと、胸が悪くなるような屍の臭い。それを目障りだと言いたげに無造作な腕のひと振りで弾き飛ばし、消し去った黒鏖の許に、今度は中二階の席から雨霰と降り注ぐ、飛び道具の類いが襲いかかってきた。
弓・弩弓、のみならず