昼の休憩を挟んで始められた、3戦目。どこから聞きつけたものか、守備隊以外の観衆も増えていたが、そんなことは向かい合う二人にとって、関係のない話だった。中天からやや
西に外れ、黄味を帯びた陽の下で、佇む影が色濃く落ちる。
「――始め。」
三度目も先の二度と変わらず、淡々と開始を告げる由良の声が響いた。だがそれに応えた二人の反応は、先とは違っていた。いずれも相手の隙を窺い、ジリ…、と、僅かに立ち位置を変えただけ。後は息詰まるような睨み合いの気配だけを放ち、微動だにしない。
互いに、それだけ仕掛けるきっかけが掴めずにいるのだと悟り、見つめる観衆はゴクリ、と息を呑んだ。下手をすれば一瞬で決着はつくかもしれない。その瞬間を見逃すまいと目を皿のようにする観衆の前、恰かも彫像と化したかの如く二人の姿は膠着したままだった。
……その均衡を破ったのは豪毅であり、彼が動く原因を作ったのは、皓子であった。
ただ黙して佇んでいると思われていた皓子の唇が、某かの咒を詠唱して幽かに震えていると悟った刹那、豪毅は不味いと察して地を蹴った。それは皓子の唱えている咒が何か解ったからではない。ただ単に、このままにしておいては不味いとの感覚が働いたからだ。それは、本能的な直感と言って良かった。
【続く】