皓子の詠唱が終わる前に、なんとしてもその咒を止める。そう意図して踏み込んだ豪毅の放つ斬撃は、しかし虚しく空を切った。半眼を閉じ、完全にトランス状態にあると思われた皓子は、そのままの姿で軽やかに後退し、豪毅の刃を避けて尚も詠唱を続ける。
恐らく豪毅に悟られた時点で、既に詠唱の大半を終えていたのだろう。後ろに下がると同時に皓子は剣指を打ち振るい、豪毅めがけて白い光球を放った。赤ん坊の頭ほどもある五つの光球は、螺旋を描いて四方から、豪毅を捉えようと肉薄する。
時間差で来る攻撃を、豪毅は擦り抜ける勢いで尚も皓子に走り寄り、光球をいなすついでの如く相手と斬り結ぶ。定石でいけば、ここは一旦、距離を置いて光球を片づけ、然る後に皓子と対するのが常道だ。でなければ皓子自身の手も含め、都合、六つの攻めを同時に捌かなくてはならない。
しかし、その難関を、どうにか凌いでみせながら、豪毅は執拗に皓子に喰らいつき、互いの距離を開けようとはしなかった。――それもまた豪毅の直感である。この光球は、ただの攻撃ではない。必ず何か仕掛けがある。それを回避するためにも極力、皓子との間合いを開いてはならない。そう考えるまでもなく反射的に判断して豪毅は、軽やかに飛びすさり続ける皓子の後に追い縋った。
【続く】