豪毅が振り解いた水縄は、細かな水滴となったあと霧散し、残らず干上がっていく。仄白く漂う蒸気の下から身を起こした豪毅は、着衣にまで気を遣う余裕がなかったのだろう、腰周りにかろうじて破れ残しの布地を纏うばかりの全裸姿で人型に戻っていた。
しかし、そんな彼の姿から顔を背ける者はいない。誰もが、これから続く戦闘を見逃すまいと、固唾を呑んで見守っていた。
豪毅は足下に確保していた愛剣を、柄頭を踏んで引き起こすと、そのまま鞘止を蹴って宙に浮かせ、利き腕に捉えて掴み直した。大刀を片手で構えるその姿は、破れた服も相俟って蛮族(バーバリアン)の如くであった。対する皓子は、僅かに血と汗とを衣服に滲ませただけ。やや下げ気味に構えられたサーベルの切っ先だけが、必殺を期して鋭い輝きを放っていた。
……互いに、次が最後。示し合わせず、そうと定めたもののように二人は、噴き上げる気炎を放って我が剣に意識を集中させ始めた。薄雲る空の下、金色の光柱と白銀の陽炎とが互いに天を貫く。緊張も気力も限界まで高まったと誰もが認めた、その時――。
「――ォオオォオォッ…!」
「……ッアァァアァ――!」
獣にも似た咆哮が左右から激突し、交錯した。
【続く】