「――そこまで。」
「……ッ、…」
淡々と由良が宣するのと、背後から首筋に刃を突きつけられた豪毅が両手を上げて降参の意を示すのとは、ほとんど同時だった。
――完敗、だった。技量の差ではない。気迫からして既に負けていたのだと、項に当たる刃の感触を覚えながら、豪毅は噛みしめていた。
刃折れても尚、心折れなかった皓子。彼女が何を拠り所に戦っているのかは、その手に伝う血を見るまでもなく解る。武器が、刃が戦うのではない。戦うのは、飽くまでそれを振るう者の意志。そのことを身をもって教えられ、豪毅は心から敗北の頭を垂れた。
「失礼、――…」
由良の勝者宣言と同時に皓子は常と変わらぬ冷淡さで嘯き、手にした刃を退いた。と、己が背からドッと冷や汗が滲み出るのを感じ、豪毅は低く呻いてその場に膝を突いた。気がつけば練兵場には夕闇が迫り、駆け寄って来る部下たちの姿も深い影に覆われている。そんな中、瓦礫の上に佇む皓子の姿だけが仄白く、浮かび上がって見えた。
折れた剣を、それでも鞘に仕舞った彼――彼女は、言う。
「約束の品は後日、受け取りに行くわ」
お疲れ様、と微笑む皓子の姿が、その日、豪毅が最後に見たもののすべてだった。
【続く】