どうと倒れた豪毅の身体を、その後、如何にして部下たちが医務室へ運んだのか、豪毅は聞かされていない。ただ彼が倒れた直後に皓子もまた、気を失って卒倒したのだと聞かされ、少なからずホッとしたのは偽らざる真実だった。
そして今日――大祭当日に、皓子の言う『約束』は、やってきたのだった。
「それで、隊長位を譲り渡して、こんな所に?」
心なし咎めるような口調の滲む風早に、豪毅は弱った風に頬を掻きながら視線を逸らした。
「……まぁ、約束は約束、だからな。」
それに、守備隊の務めは制服でしている訳ではないし、と珍しく言い訳がましい科白を口にした豪毅に、風早はこちらも珍しく柳眉を逆立て声を荒げた。
「不謹慎です!」
見損ないました、との言葉を捨て科白に、ダッと駆け出して行ってしまった風早を半ば唖然と豪毅は見送る。その背中に、傍らにいた達帰が控えめに声をかける。
「追いかけた方が良いですよ、隊長?」
「……そうなのか?」
いや、打ち合わせがまだなこともあるし云々と呟く守備隊きっての朴念仁を見上げ、達帰は深々とした溜息を吐いた。この彼が彼女と想いを遂げるのは、しばらく先になりそうだなと憂いながら。
【了】