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2009 *09 27 and you or nothing 〔1〕

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 初めて抱かれたのは何時だったか。もう覚えてはいない。
続き
 気がつけば彼の腕の中――そんなロマンチックな展開である筈もなかったけれど。一つだけ覚えていることがある。それは初めての時、互いに酷く興奮していたということ。



 成人した(少なくとも、そうと認められるまでに成長した)黒鏖と久鷹が月の宮から闇の城に所属を移したのは、盟主からの要請でもあり、彼ら自身の希望でもあった。盟主としては誰か適当な者を寄越して欲しいと望んだのであり、それに有志として黒鏖と久鷹の二人が名乗りを上げたのだ。
 当初は、その雷閃に酷似した容姿故に黒鏖が衆目を集めたが、それも探るだけ詮なき謎、と言うより明らか過ぎて白々しい上に迂闊に触れれば命取りにもなるとあって、程無く下火になった。
 代わりに噂の的となったのは、久鷹である。彼とても父親に酷似した容姿をしており、しかもその男は闇の城が総司令の副官。母親は妻となった総司令、その人と思しかったが、彼女は黒鏖の父と目される雷閃とも愛人関係にあった。黒鏖との関係を考えるなら愛人の子と夫婦の子――ただでさえ複雑な関係の者同士が、しかも二人そろって闇の城へ来た。噂の的にもなろうというものである。
 それに――久鷹にとっては不幸と言うべきか――彼が容姿の良く似た父親は、闇の城では特定のある意味で、ちょっとした『カオ』であった。

【続く】

14:55 | SS | 稲葉