例によって最下層、しかも最も質の悪い類の連中が屯す界隈で、祝わしからざる宴が繰り広げられようとしていた。
獲物は極上とあって、いつになく集団の熱は上がり、狂乱に近い様相を呈している。車座の中央に引き据えられ、身に纏った純白の軍服も毟り取られた美貌の男。その長い金髪が掴み上げられ、程よく引き締まった身体が汚されようとした、その時だった。薄暗く奥深き地下では聞くことも叶わぬ筈の雷鳴が轟き、蛇の舌先の如く裂けた稲妻が四方に降り注いだ。
初めの雷撃を受けた者は、己に何が起こったか解らなかっただろう。何を思う間もなく雷光に灼かれ、完全に炭化していたのだから。次に生き残っていた者も、ほとんど為す術はなかった。轟音に耳を聾され、閃光に目を眩まされ、前後不覚に陥っている内に第二波が彼らを襲った。辺りを薙ぎ払い、欠片も形残さず消し尽くす、紫電の光。いや、それが稲妻だと認識できた者がいたかどうか。
猥雑に積み上げられたスラムも、そこに集う有象無象の者共も、皆等しく平らげてようやく雷撃は止んだ。後に残されたのは、ただ一人だけ。その姿すら人目に曝すは惜しいとばかりに黒い影が包み込み、掻き消えた後には塵ひとつ遺されていなかったのだった。
結果、闇の城最下層は、そのほとんどが消滅した。地上に換算して優に二、三階層を吹き飛ばしたこの事件は、後に盟主からの処分者が出なかった事により、暗に実行犯が知れた。と、言うよりも、それだけの仕業を為し得る実力の持ち主となれば限られてくる。盟主が処分をしなかったということは、その認識に裏付けを与えたに過ぎなかった。
――実行犯の名は、雷閃。そして件の際に渦中の的となったのが久鷹の父・一成であった。
【続く】