そして今、既に死んだとされる雷閃は闇の城になく、一成に良く似た久鷹が新たに現れた。
彼の両親は軍の総司令と、その副官とは言え、先代アマテラスとの戦闘が一段落した昨今、あまり城内で姿を見かけぬというのが大勢の声である。過去の惨劇を知る者でも喉元過ぎるには、十分な条件が揃っていた。
かつて最下層であった一円は完全に吹き飛ばされたものの、新たに最下となった部分にはやはり似たような手合いが屯し、同様のスラムを築き上げている。久鷹の父親と異なった部分は、そうした不穏な場所には決して自ら近寄ろうとしなかったことだが、後ろ楯があるとはいえ彼もまだ着任したばかりの一兵卒。下士官以下の居住区域は限りなく下層に近く、また其処そのものも上階に比べて静かとは言い難い環境をしていた。
なにより久鷹にとっての不幸は、ある意味では黒鏖の父親以上に彼の父親の名と顔が売れ過ぎていたことである。主に、そうした趣味や欲望を持つ者の間で。
こうなると最早、久鷹が喜ばしからぬ手合いからの歓迎を受けるのも時間の問題と言えた。
また、誰にとっての不幸かは知れぬが、もう一つ。何故か共に居ることの多い黒鏖は所詮、見かけ倒し。雷閃の姿と、彼が父親かも知れぬという威光を借りただけの若僧だと思われていたことも災いした。
――起こるべくして起きた事件は、こうした背景の下、二人が入城して間もなく発生した。
【続く】