目覚めると、そこは既に宴の席上だった。いや、久鷹の立場からすれば俎上と言うべきか。
下士官用の食堂とおぼしき空間に、仰向けに横たえられている。両の手首は頭上側にあたる机の脚に括りつけられ、両足は膝を立てた状態で開かされ、やはり机の脚に縛りつけられていた。それでも両手両足を拘束したということは、少しは久鷹の抵抗を恐れているということだろう。あるいは、その方が『そそる』との思惑か。いずれにせよ久鷹にとっては、まったく嬉しくない状況であった。
身に纏っていた衣服は引き毟られて、既にない。ということは脱がされている間にも正体なく昏倒し、好きに扱われていたということである。身体の何処にも脱がされ縛られた以上の違和感はないが、屈辱に変わりはなかった。
周囲に屯す連中は、いずれ劣らぬ下卑た笑いを浮かべ、ニヤニヤと締まりのない口を歪めている。その、涎を垂らし舌舐めずりせんばかりの眼差しの的に自分がなっているのだと思えば、怒りと情けなさで久鷹は涙も出なかった。
何処か遠くで誰か男が某か叫び、それに応えて歓呼の声が怒号のように上がった。その時になって、ようやく久鷹は気づく。中二階になった食堂のテラス席まで、下級兵士が見物人として埋めつくし、そんな衆人環視の下で己は犯されようとしているのだということに。
しかも相手は、一人や二人では済むまい。見守る観衆や、何より実行犯の連中が満足する結果に至るまで、何人でも何度でも輪姦されるだろう。それはゾッとしない、しかし容易に想像のつく展開であった。
だが、だからと言って媚びたり赦しを乞うたりするつもりは、久鷹には毛頭なかった。そんな真似をするくらいなら、自ら舌を噛んで死んだ方がマシだ。さりとて此処で死んでも、その後の亡骸を大喜びで好きに玩ばれるだけだ。
何としても生命あるまま、無事にこの場を切り抜けなければならない。ジリジリとなる想いに久鷹は、机の脚に縛りつけられた両手を拳に握った。
【続く】