log

2009 *10 04 and you or nothing 〔8〕

ファイル 127-1.gif

 肉を貫く鈍い手応えは、二重に被って久鷹の腕に伝わった。今しも己に覆い被さろうとしていた男。その胸板を、鳩尾を抉る角度で久鷹の刃が貫いている。
続き
 そこからやや上、確実に心臓を捉える位置から生えた剣の切っ先に、突き刺された当人はおろか、久鷹までも驚きの目を瞠いて硬直した。
「――甘いな。」
 崩れていく男の肩越しに姿を現した相手が、うっそりと囁くのを、久鷹は信じられぬ面持ちで聞いていた。彼の刃は確かに男の肉を貫いてはいたが、いささか浅く、致命傷には今一歩、届いていなかった。男を殺したのは、自分ではない。確実に仕留めたのは、目の前の相手。誤たず心臓を貫き、止めを刺したのは、彼――。
「……黒、鏖…」
 愕然と、それでも相手の名を呼び、上体を起こした久鷹に、黒鏖は微か笑って皮相な仕草で口許を歪めた。
「敵を斃す時は、一撃必殺を心掛けろ」
 そう、教えられたろうと嘯く皮肉は、先の一瞬、男を仕留める久鷹の攻撃に躊躇いの鈍りがあったと見抜いたが故だ。それが解った久鷹は、カッと眦を張り、怒りと屈辱の色に頬を火照らせた。
 そんな久鷹の姿を黒鏖は、軽く鼻を鳴らす笑いと共に流し見、手首を捻って男の背中から自分の得物を引き抜いた。

【続く】

19:00 | SS | 稲葉