log

2009 *10 06 and you or nothing 〔10〕

ファイル 129-1.gif

 ジャッ…と重たい鎖を振り回すのにも似た音がした後、椿の花を落とす鮮やかさで、7つの首が同時に床へ転がり落ちる。血飛沫は、少し遅れて噴水のように、取り残された胴の頚部から噴き上げた。
続き
「――黒、鏖…」
 一連の動作を見届けた久鷹には言葉もない。同じ頃に生まれ、気がつけば行動を共にしていた。友と呼ぶのとも違う。けれど単なる兄弟というだけでもない。いつも見ていた。その成長ぶりを。しかし、これ程とは――。
 久鷹は今更ながらに、互いの距離が近すぎて見損なっていたかも知れない可能性に思いを致した。一度に七人もの男を、眉ひとつ顰めず屠って見せた黒鏖。それだけの胆力・実力は、まだ自分にはない。久鷹は確かに、そう認められた。
 黒鏖は、自らが振り撒いた下郎の鮮血で、それと知らせぬ結界を敷くと、改めて全裸の久鷹と向き直った。そして、その腕に絡んだ戒め用の縄の残骸に目を留めると、噴飯ものだと言いたげに失笑する息を吐き出した。
「こんな物で、此奴を止めようと言うのか」
 出来る筈がない、と呟く代わりに黒鏖は久鷹の腕から縄の残骸を毟り取り、ついで縄目の痕も鮮やかに残る彼の手首を、片手でひと纏めに掴み上げた。
「此奴を止めたいと思うのなら、これ位の事はしなくては、な……」
 嘯きつつ黒鏖が懐から取り出したのは、細身の刃を持つ銀の短刀。ミセリコルデと呼ぶには些か長い刀身を、彼は迷わず一つに纏めた久鷹の掌中央に打ち込み、背後の木製テーブルに深々と縫い留めた。

【続く】

19:02 | SS | 稲葉