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2009 *10 07 and you or nothing 〔11〕

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「……ッア、…」
続き
 抗う暇もなく、そんな真似をされた久鷹の口から、くぐもった悲鳴があがる。掌に柄が当たるまで刃を食い込ませ、両手を高く掲げた状態で机上に磔にされた久鷹は、信じられぬものを見る目で黒鏖を凝視する。その眼差しをこそ、心地好さげに受け止めて黒鏖は悠然と微笑むと、高らかという程もない低音の声で呟いた。
「――覚えておけ。此奴は俺の獲物だという事を。此の場から、生き延びる事が出来たなら、な……」
 その科白が、直後に始まる死の狂宴の先触れだとは、その場に並み居る誰もが予想だにしなかった。ただ一人、黒鏖の真傍に居た人間を除いては。
 ――先に殺された、七人の男の血潮で描かれた結界が、消える。それが黒鏖の『誘い』だと理解したのもまた、久鷹を措いて他にはなかった。石床に吸い込まれるように終息した緋の光が、彼我を隔てる境を失くした瞬間、殺到したのは、やや遠巻きに事態を見守っていた連中であった。彼らは輪姦の環にこそ加わっていなかったが、いつでもその列に並ぶつもりのあった死者の朋輩であろう。仲間を殺された逆上にか目の色を変え、黒鏖めがけ襲い掛かってくる。
 それらが自分達の間近に寄るまで接近を許して、黒鏖は何気ない素振りで上向きに翳した掌を拳に握りこむ。刹那、終息したかに見えた緋の輝きが蘇り、内に牙剥く大蛇の顎となって口を閉ざした。血に濡れた牙にも似た深紅の杭に、結界内へと踏み込んだ愚か者達は次々と刺し貫かれ、息絶えていく。
 バタバタと倒れ伏す先駆者を見て、後続は驚き慌てて足を止める。しかし、そのたたら踏む無様な姿に降ったのは、長鞭と化したシナーズ・ソードの一撃。今度は首のみ飛ばすなどという生易しいものではなく、腰斬され腹部から臓物をぶちまけたり、脳天をカチ割られ脳漿を撒き散らすといった死体が続出した。

【続く】

19:05 | SS | 稲葉