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2009 *05 15 トキメキ 〔15〕

「この私を欺こうとは良い度胸だ。――その腐った性根、叩き直してくれる!」
続き
 下した宣告は、転変した麒麟の蹄として逆の身に下された。高々と蹴りあげられた仔竜の身は、里を囲む森の上空で目印のように雷で撃たれた。その後を追って、肉皮を脱ぎ捨て抜き身となった角を振り立てた雷麒を見て、雪麟は今度こそ悲鳴を上げた。
「雷麒っ!」
 その声にすら雷麒は、チラと一瞥くれたのみで相手にはせず、代わりに低く呟いた。
「この程度で死ぬ様ならば、四神の任など到底、務まらん」
 さっさと殺してやるが慈悲だと言わんばかりの口調に仔らはすくみ上がり、雪麟は涙目の眦に浮かぶ雫を震わせた。事は逆のみに及ぶに非ず。明日は我が身だと、聡い子供たちには知れたからだ。それを知った上で尚、雷麒は殊更に冷淡な口調で嘯いた。
「仔など、幾らでも作れば済む。四神の資格を備えた者など、一人と限った話ではないのだからな」
 実の仔に聞かせるには余りに惨い捨て台詞を背に、雷麒は逆を追って飛び立った。その後ろ姿を、思い詰めた眼差しをした雪麟が追う。
「危険です、雪麟!」
 これから何が起こるかは明白――それは逆への、生死を問わぬ制裁だろう――であるのに、現場へ向かおうとする雪麟に、風早は引き止める声をかける。
 しかし、この世で最も駿い獣である麒麟に転変し駆け去った彼女に、如何な風早とて追い縋れるものではない。それに、怯え震え上がっている子供達も、このままにはしておけない。
 願わくは、雷麒の眸に残っていた理知の光を頼みに風早は子供たちと向き直った。もしくは、思い余った雪麟が雷麒の意図を解さず、滅多な事をしてくれるなと祈りながら。

【続く】

21:16 | SS | 稲葉