「うーい、飯だぞー。飯ー」
言い言い、翠嵐は庭にある石燈籠の陰にひとり、縁側の床下にひとり、といった具合に、隠れ潜む子供らを見つけだし、首根っこをくわえて摘まみ出す。
垣根の植え込みにひとり、柿の木のウロにひとり。どの子も見つかっても然程ショックではないのか、キャッキャッと笑っては隠れ場所から摘まみ出され、ひょいと首振る翠嵐の動きに従って彼の背中に乗り、そこにしがみついていく。
「ねーねー、翠おじさーん。きょうの晩ごはん、なにー?」
背にしがみついた子のひとりが、ユッサユッサと身を揺すって尋ねれば、
「あぁ? 今日は川魚の焼いたのと、茸のみぞれ鍋だ。少し鼻利かしゃ判んだろ」
と、翠嵐は残りの子を探す足も止めず答える。
実を言えばこの程度のこと、彼の鼻からすればかくれんぼでも何でもない。気配も匂いも隠すことを知らない子供らが、方々から「見つけて、見つけて」と彼に呼びかけているようなものだ。それに子供らも、とっくに気づいて飽きても良さそうなものだが、家では数少ないオトナの男の人に構って貰えるのが嬉しいのか、一向に隠れる癖をやめようとしない。
まぁ、中には翠嵐と弥天の間に生まれた子もいるのである。子守り相手が1匹2匹、いや5、6匹増えたところで大して変わるまいと、そう思えてしまうあたり、翠嵐も父親譲りの気性をしているのかもしれなかった。
そうこうする内に、翠嵐の足は敷地の片隅にある離れへと近づいていた。背に鈴なりになった子供らの数は、まだ2、3匹足りない。中には、腹を空かせて自分で家に入ってしまった奴もいるのだろうが、念のため、と翠嵐は抜き足指し足、離れの垣へと近づいていった。
誰でも出入り自由の母屋とは違い、離れは基本的に二人しか立ち入ることも、近づくことも許されていない。ひとりは、この家の主たる顎人。そして、もうひとりは彼の巫子たる一成だ。
要するに一家の主が恋しい妻と気兼ねなく乳繰り合う、もとい愛し合うための、夫婦の居室として作られたのが、この離れなのだが。そんな事情、はっきり言ってしまえば幼い子供たちには関係ない。
……余人の立ち入りが禁じられているということは、人気がないということで。人気がないということは、隠れるにはうってつけというわけである。ダメだと言われたことほど、してみたくなるのが幼い子供というものだ。絶対、一匹や二匹は隠れ潜んでいるぞとあたりをつけた翠嵐の案の定、離れの垣下で蹲る仔犬の姿があった。
【続く】