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2009 *05 27 トキメキ 〔27〕

「あーい、皆、耳餃子ー」
続き
「みみぎょーざー」
 翠嵐の掛け声に従って、彼の背中に鈴なりになった子供らは皆、一様に耳をペタンと二つに折る。身体の構造上、それが出来ない者や幼さ・不器用さから巧くいかない者は、互いに誰かに耳を押さえてもらって折り畳む。
 これも離れに近づく時のお約束だ。聴いてはならないオトナの会話を聞かないように、お耳はペタンと耳餃子。もっとも、翠嵐ほどになると耳を塞いでいても聴こえてしまうものはしまうのだが。まぁ、子らの手前もある。しないよりマシだ。
 中には目を閉じたり口まで塞いだ可愛いチビ共を背に乗っけたまま、翠嵐は垣の根元に蹲る仔犬の許へスタスタと歩み寄った。ちんまり丸まったまま動けずにいるチビの首根を銜え上げ、喉だけ使った小声で、その子に話しかける。
「ほら、飯だ飯だ。帰るぞ」
 すると、首根っこを銜えられ、ぷらんと四肢を垂らした仔犬は、少し首をひねって翠嵐を見上げ、こう言った。
「ねー、おじさん。いっちゃうって、どこに? おかーさん、おとーさんおいて、どっかいっちゃうの?」
 ……それを聞いた瞬間、翠嵐の目が点になるのと同時に、離れの障子が二枚まとめて吹っ飛んだ。

【続く】

09:25 | SS | 稲葉