さりとて二人はこの砦、しかもこの一室に、ほぼ軟禁の状態だ。日々の暮らしに不自由はないとはいえ、彼女ら好みの騒動を起こすには、執れる手段はあまりに少ない。それでも、と算段するあたりに妙な悦びすら感じ始めているのか、幽閉されてから半年以上の時が経とうというのに一向、この姉妹の性情に改善の兆しは見られないのだった。
「何か名案はあって?」
言葉遣いこそ淑やかであっても瞳の輝きと舌舐めずりせんばかりに吊り上がった唇が口調を裏切る朱紫に、紅紫は幽かな含み笑いで応える。
「此処は雷閃様の結界内。外には出られぬ以上、中で種を見繕うしかないわ」
淡々と事実の確認を行う紅紫に、朱紫は唇を尖らせて子供っぽい不満の相を示す。
「あら、でも此処の住人ときたら気の利かない殿方ばかり。私、久々に玩ばせて頂くなら堅物の紳士より可愛らしい姫君の方が宜しいわ」
それを聞いた紅紫は、心外なと言う風に眉を跳ね上げ、可笑しげな声を洩らす。
「まぁ、朱紫ったら。堅物には堅物なりの味わい方と、調理法があるのよ?」
貴女も、すね肉のシチューはお好きでしょう? などと冗談めかす紅紫の口振りに、双子の阿吽で感じるところがあったのか、朱紫はクツリ、と喉を鳴らす。その笑みは、相似を描いて紅紫の口許にも移った。
「それに、貴女好みの姫君なら、とっておきが此処には居るでしょう?」
来たばかりの頃は、どうなる事かと思ったけれど。じっくり寝かせた甲斐があったわ――などと詠うように囁く紅紫に、朱紫はクックッと喉を鳴らす笑みを深めた。
「そうね。本当に、そうね。……じっくり寝かせて、今が食べ頃――」
そうして微笑う二人の美姫の密談は、誰に聴かれることもなく、見交わす互いの瞳のみで示し合わされるのだった。
【続く】