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2009 *06 16 白き焔 〔3〕

「それで、与えられた務めは解っているの?」
 生まれも育ちも、ほぼ時を同じくしたにも関わらず、皓子は多少、秘女より早く女官としての務めに入ることとなった。その先輩風を吹かせて、ということでもあるまいが。制服の違いすら解らぬようでは先が思いやられる。そう案じての、いささか意地の悪い皓子の問いであった。
続き
 それには流石、生まれて以来の対。阿吽の呼吸で心得、秘女は優雅に白衣の裳裾を引き、女官に相応しい仕草で一礼して見せる。
「本日より内宮奥殿、若葉ノ間の世話役を仰せつかりました」
 以後、お見知り置き下さいませ、と品良く繕った声音で告げてから、たちまち秘女は素に戻って肩を竦めた。
「てことは、要は今までと変わりないってコトよね」
 赤ちゃん部屋の世話なら、これまでだってしてきたものと、つまらなさそうに呟く秘女に、皓子は口元に宿る微苦笑を濃くしながら溜息を吐いた。
 いつもやっていた――その務めが如何に難しく、また重大事であるのか、まだ幼い彼女には解らないのだろう。若葉ノ間、通称・赤子部屋とも呼ばれる場所に集められているのは、ただの子供たちではない。現・ツクヨミの血を引いた子は元より、先代ツクヨミの血を引く子、現・先2代に渡る死神の血を引く子、そして世界樹の化身たる者の血を受け継ぐ子すら含まれている。
 いずれ劣らぬ、優れた素質を持つ子供たち。その身に内包された可能性は、あらゆる集団から肉の一片、血の一滴であろうと属望される対象である。また、同時に月の宮および闇の城に敵対する者たちにとっては、何を措いても価値のある人質、兼、戦力素材である。
 誰一人、そうした手合いに渡すわけにはいかないし、間断なく迫り来る魔の手から、いまだ無防備な彼らを守り抜く責務がある。内宮仕えとはいえ奥殿の、しかも若葉ノ間付を任されたということは、本人が思っているよりも、重い責任と過酷な務めが待っているのである。
 それなのに、この始末。この気負いの無さは、どうだろう。思わず嘆息したくなる気持ちを堪え、皓子は穏やかに笑んでムクれる秘女の頬に手を添えた。

【続く】

09:13 | SS | 稲葉