――皓子の全身を覆っていた、燃えるようなオーラが消える。と同時に秘女がパン! と両手を打ち鳴らし、周囲に張っていた結界を解除する。
赤いドームが消えるのと同時に、わっと駆けよってきたのは、それまで結界の外で固唾を飲み、成り行きを見守っていた子供たちだった。彼らは一様に泣きべそをかきながら、秘女の周囲を取り巻き、口々に心配の声をかけつつしゃくりあげている。幼心にも、この危機を救い、自分たちを助けてくれたのが、彼女の判断と勇気ある行いだと解っているのだろう。
秘女は労りの声をかけてくれる同僚の女官たちに応えながら、優しく子供たちの頭を撫で、彼らの動揺と興奮を宥めていった。
と、その時、後れ馳せながら月の宮守備隊の第1軍が駆けつけて来る。一群の先頭に立つ隊長の姿を目にした瞬間、それまで穏やかに苦笑していた皓子の表情が一変した。
「――遅いッ!」
その一喝と共に蘇ったのは、白衣の裳裾を逆立てるかと思える白熱の気焔。端整な横顔は烈火の如き怒りに染まり、吊り上がった目許はまるで般若のよう。それを見た瞬間、ようやく宥まっていた子らは、ヒクッと引き付けを起こしたようにひきつり、ついで
「う、うわぁあ~ん!」
銘々が、火のついたように泣き始めた。あたりは涙、涙の大合唱である。それには敵と戦うより尚、大苦戦を強いられた秘女と皓子、そして第1隊の面々なのであった。
【続く】