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2009 *06 25 白き焔 〔12〕

「ねぇ、皓子?」
 泣きじゃくる子供たちを、どうにかこうにか宥め、事後報告を宮の男主人・由良の許で行った帰り道。秘女は恐る恐る、皓子に問いかけた。
続き
「――何?」
 返す皓子の声が、いささかならず硬いのは、由良に「オマエも女の身であるのだから、あたら賊討伐に乗り出すな」と、心配も含めた小言を貰ったからだ。
 ――心外な。と、皓子は想う。他でもない、秘女のことを他人に任せろなどと。それは、たとえ月が青く染まることがあっても出来ない相談だった。
 そんな皓子の内心を知ってか知らずか、秘女は上目遣いの視線で躊躇いがちに彼女に尋ねる。
「どうしてあの時、助けに来てくれたの?」
 勤め始めたら、いつも一緒にいられるわけではない。だから気をつけろと、あれほど口を酸っぱくして言っていた貴女なのに。そう、雄弁に伝える秘女の青い瞳を見て、皓子はフッ…と双眸を細めると、溜息にも似た苦笑いを吐き出した。
「それはね、……」
「それは?」
 まるで輪唱のように遅れて繰り返す無心な秘女の様子に、皓子はますますの苦笑を誘われながら緩く頭を振る。
「それはね、――」
「それは?」
 段々と焦れて語気が荒くなってくる秘女から眼を反らし、揺るぎなく前を向きつつ皓子は、淡々と、こう言った。
「それはね、――秘密。」
 それを聞いた途端、秘女はぷーっと頬を膨らませてムクれ返った。
「え~?ズル~い!」
 ここまでひっぱっておいて! と拗ねる彼女にも、「あら、教えるなんて言った覚えはなくてよ?」などと、しゃあしゃあ嘯いて皓子は、そっと胸に潜む白い焔を噛みしめた。


 そう、これは千年の秘密。今は、まだ。――貴女を愛しているということは。
 いつまで隠し遂せるかも知れぬ、秘め事の熱を胸で持てあましながら、皓子は秘女を伴い、帰っていった。彼女らの、在るべき場所へ。

【了】

22:50 | SS | 稲葉