log

2009 *08 01 jealousy 〔1〕

「――意外に、秘女(ひめ)はモテるのよ?」
 そう言われた時、当の本人は信じられぬ眼を見開いて、ぱちくり、と瞬きした。
続き
「い、意外って何よ~」
 慌てて我に返って言い返すものの、その動揺は隠しきれていない。そんな彼女の狼狽を、赤らむ頬から敏感に感じ取って慕鼓(もこ)は、ちょん、と秘女の鼻先を指でつついた。
「うかうかしてると横からさらわれちゃうんだからって、伝えなきゃダメよ?」
「伝えなきゃって、誰に!?」
 ますます狼狽える秘女に、慕鼓はクスクス笑って首を傾げる。
「それは秘女の――、好きな人によ」
 言われて秘女は、今度こそボンッと音を立てて顔から湯気を噴き出した。
「すすす好きな人って、そんなっ、そんな…っ!」
 あたふたと手で顔を覆いながら繰り返す秘女に、やんわり慕鼓は微笑って眼を細める。
「いるんでしょ? 好きな人。」
 ――それぐらい、見てたら解るわと言う慕鼓に、今度こそ秘女は目玉が零れ落っこちそうなほど眼を見開き、ぱくんと顎を落とした。
「……なんで?」
 愕然と問う彼女を、まるで可笑しいものを見るかのように眺め、慕鼓はそれ以上の笑いを抑えようと努める。けれど零れる可笑しさを唇に飾ったまま、彼女は秘女に囁いた。
「それは、見てれば解るわよ。――秘女、とっても綺麗になったもの」
 それが恋する乙女の証、と冗談めかして囁かれ、秘女は愕然としたまま慕鼓と別れ、女官室へと帰っていった。

【続く】

22:15 | SS | 稲葉