「???」
女官室に帰って来てからというもの、秘女は盛大に「?」を乱れ飛ばしてピタピタと自分の顔を撫で回していた。……綺麗になったと言われても、毎日鏡で顔つきあわせている自分のものでは、イマイチ実感が湧かない。そも由々しきは、誰にも話したことのない「好きな人」の存在を、慕鼓に察知されてしまったことである。そんな、顔に出るほどあからさまな態度を示していただろうかと、そちらの方が気になる秘女であった。
「何をしているの、貴女――」
先から仕事もそっちのけで自分の顔を撫で回してばかりいる秘女に、とうとう見かねて皓子(こうし)は、そう声をかけた。
今日は内宮外宮併せて催される大祭に向けて女官の司が打ち合わせをする予定だった。しかし、当の内宮女官司・秘女が、こうも気も散漫で集中力を欠くのでは、話が進まぬこと夥しい。まったく、何をそんなに気にしているのかと皓子は、クイと秘女の顎を掴み、上向きに仰かせた。
「秘女? 一体、どうしたの?」
身体の具合でも悪いのか、と気遣う眼差しを皓子が寄せるのは、こう見えて仕事熱心な彼女が、滅多なことでは己が職務を疎かにしないと知っているからだ。
「……秘女、――?」
接吻けられそうなほど近くから覗きこむ皓子の瞳を見上げ、秘女はやおらボンッと頬を上気させると、慌てて距離を取る後退りを行った。
【続く】