「な、な、な、なにっっ!?」
驚き過ぎというほど仰け反った秘女に、皓子は呆れた溜息をひとつ。
「何って、眼に睫毛でも入ったかと思ったのよ」
だから確認しただけでしょう? と、肩を竦めて呟いた。その声音に、少なからず傷ついたような風が見え隠れするのに気づき、秘女は慌てて繕いの言葉を投げようとする。しかし咄嗟に何と言って良いものか解らず、迷った末に口にしたのは結局、自ら墓穴を掘るような内容であった。
「あ、あ、あた、あたしね? こう見えて意外とモテるんだって!」
「……、――…」
自分でも言っていて微妙になる科白を聞いた途端、皓子の双眸がスッと細まり、周囲の温度が2、3度下がる…ような気がする。そこで更に慌てた秘女は、
「えっ、あ、でもねっ、私には関係ないんだけど!」
と、そうまで言って今度こそ、氷点下まで凍てついた皓子の冷たい眼差しに行き当たった。
「――関係ない? それは、どうして?」
いちいち行間に挟まれる呼吸が、そら恐ろしいまでの威圧感を醸し出す(そんなところは育ての親・雷閃譲りだ)。そんな皓子の態度に、狼狽も頂点に達した秘女は、ほとんど混乱に眼を回しながら、懸命に言い募った。
「だってね、私にはもう、好きな人がいるんだもん!」
だから誰にどれだけモテようが意味はないのだと言いきった秘女は、しかし自分がとんでもない地雷を踏んだことに気がついていなかった。
【続く】