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2009 *08 05 jealousy 〔5〕

 ……女官室を飛び出した後の秘女は、惨憺たる有り様であった。まず、掃除中のバケツにハマる。イタズラな子供たちの投げる泥団子には当たる(普段は華麗に避け、逆襲まで果たすにも関わらず)。
続き
しまいには、皓子との打ち合わせを経て、内宮女官所にて段取りの検討を行わねばならない諸々の事共を、綺麗さっぱり放り出して来てしまったのだと終業間際の夕刻に気がつき、真っ青になる始末だった。しかし、――…。
「あぁ、それだったら昼の内に皓子が、大枠の素案を組んで持って来てくれたから、大丈夫よ?」
 もう着々と準備は始めてるわと、そう同僚から告げられ、秘女はホッとするより先に、地の果てまで深く落ち込んだ。
 ――ヤバいと思った事態が回避されていたのは、それだけ見れば喜ばしい話だった。だがそれは、裏を返せば秘女にとって「自分などいなくても皓子は仕事が出来るのだ」という事実に直結する。そこに昼間、カッとなったとはいえ己が犯した失態と理不尽な態度への反省が加わり、秘女の落ち込みは底なしな上にも加速度的に深まった。
(皓子は、私なんかいなくても良いんだわ。ううん、むしろ居ない方が良いのかも知れない。あの時、「上手くいくと良いわね」なんて簡単に流せてしまったのだって、私のことは何とも思ってなくて、興味も湧かないから、だから、きっと――…)
 とかく落ち込んだ人間の思考回路は、ロクな方角に転がらない。そんな後ろ向きで自己否定的な考えに延々、秘女がどっぷりハマり込んでいる間にも、人知れず時は過ぎ、暦は既に大祭の当日を迎えていた。

【続く】

11:58 | SS | 稲葉