祭場は、すでに満場の人で満たされていた。とはいえ、並み居る人々のほとんどは月の宮の身内であり、来賓は闇の城から招かれた盟主・スサノヲと日の宮から招かれたアマテラス。他は、ごく少数の関係者でしかない。
先代ツクヨミの頃であれば、権力志向に凝り固まった示威行為の側面も強かったのだが、当代たる愛佳に、そういった嗜好はこれっぽっちもない。今日の大祭にしたところで、せっかくそういう儀式があるなら、皆で集まってドンチャン騒ぎしない手はない、という愛佳の発案により実施が決定してしまったようなものだ。
(――ほとんど、ノリは宴会の演し物よね)
今回、正装でなく盛装と指定されたわけを、そのように思い巡らせながら、秘女は皓子が出て来るであろう反対側の入口を見守った。
秘女の装いは上品な絹のドレスに幾重ものオーガンジーを纏い、髪や腰に花を飾った、ツクヨミの盛装にも比肩するもの。今日の大祭ではツクヨミは祭司の役回りを務め、なおかつ本人が飾り気を嫌う活動派とあって、「華」たることは見込めない。その代わり客の眼を楽しませよと指定されたとしか思えない装いに、秘女は人知れず溜息を吐いた。……衣装のデザインそのものに不満はないのだが、これではまるでウェディングドレスだ。
(せっかく着るなら、――…)
好きな人のためが良かったな、と想うのは年頃の乙女には当然の人情だろう。そんな気持ちを押し込め、努めて笑顔で秘女は皓子の登場を待ち受けた。と、その時、――…。
【続く】