「~~~!」
身にかかる衝撃を予期して、ギュッと眼を瞑っていた秘女は、受けたダメージが思いの外小さいのに気がつき、おそるおそる瞼を開いた。すると眼に飛び込んできたのは、眩しい銀糸の煌めきで。それが皓子の纏う軍服の胸元であるのだと悟った瞬間、秘女はボンッと音がしそうな程の勢いで顔を赤らめていた。
「――っっ、……っっ!」
恥ずかしさと情けなさと、なんだかよく解らない感情とがゴチャ混ぜになってパニックを起こし、秘女は顔も上げられなくなっていた。そんな彼女を抱きとめ、皓子が次に取った行動は早かった。
皓子は秘女の身体を受けとめたまま、素早く典礼服の上着を脱ぎ捨てると、それを広間の右端に控える本来の持ち主、月の宮守備隊長・豪毅へと放り投げた。
「ちょっ、オイ!」
顔に掛かるところであった上着をからくも避けて受けとめ、周囲を代表して声をかけた彼に、皓子は婉然と微笑むと、唇だけで囁いた。
「返す。――用は済んだ。」
そして返す踵で皓子は秘女の身体を掬い上げ、横抱きにして支えると、更なる壇上に立つツクヨミ・愛佳に向けて恭しく頭を垂れた。
「御前、失礼致します。外宮女官司、内宮女官司ともに体調不良のため、この場を限り欠席させて頂きます」
悪しからず、と言い添える微笑みすら艶やかに、颯爽と身を翻した皓子は、腕に抱き上げた秘女を伴い、祭場を突っ切って退席した。――その間、約数分。誰ひとりとして声をかける者もない、まるで一幅の絵画か銀幕の中の光景のような瞬間であった。
「みんなー、盛り上がってる~? 今日は無礼講よ~!」
と、愛佳から声がかかったのは、皓子と秘女が退席して、しばらく経った後のこと。祭場を揺るがす歓声を背に受けながら、皓子は腕に抱えた秘女の額に接吻け、その間、秘女はずっと皓子の胸に顔を埋めたまま、眼も上げられずにいたのだった。【続く】