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2009 *08 13 jealousy 〔13〕

「――見栄よ。」
 さもなくば、自分を知らなすぎた。そう言って微笑う皓子の顔は、色濃い自嘲の相に彩られていた。
続き
「応援、できるつもりでいたのよ。貴女が誰を好きになっても、誰を愛しても。……でも、できなかった」
 泣き笑いめいて囁く皓子の目は、しかし笑っていなかった。その、低く掠れた声も。囁き続ける言葉は、いっそ懺悔の如く。そして秘女の胸を深く射抜いた。
「――誰にも渡したくなかった、貴女を。誰か貴女を愛している男がいるのなら、その相手を打ちのめしても。そして、貴女が誰を愛していたとしても、きっと――…」
 振り向かせてみせる。そう、耳許に囁いた皓子の声が熱く濡れていたのに、秘女はゾクリ、と背筋を震わせた。それは決して拒絶の想いではなく。証拠に、秘女は瞳を潤ませて間近に寄った皓子の顔を覗きこんだ。
「……バカ。あなた、バカよ――…」
 そう言った秘女の科白も、皓子は甘んじて受けた。自嘲気味に歪めた唇と共に。その口端に、意を決したように接吻けてから秘女は、こう言った。
「なんで最初に訊いてくれなかったのよ、――好きな人は誰? って」
 そうしたらちゃんと、もっと早く貴方に「好き」って告白できたのに。と、少しの悔しさすら込めて呟いた秘女に、皓子は何も言わず抱きしめる腕を深くした。
「1週間も、淋しかったんだから!」
 そう、詰られても皓子には返す言葉とてない。ただ、贈り得るのは、ひと言だけ。
「――愛してる。愛してるわ、秘女。まだ見ぬ相手にすら嫉妬するほど、貴女を……」
 その告白に応えたものは、深く強く抱きしめ返す、愛しい少女の両腕。今の体格差では抱き壊してしまいそうなほど華奢に想える秘女の身体を、けれど皓子は力の限り抱きすくめ、諸共にベッドへと倒れ込んだ。彼女の腕が誘う、赦しのままに。

【続く】

19:09 | SS | 稲葉