――挑戦者は、週の始めに現れた。
「豪毅、話があるの」
そう、常からの口調で話しかけられた時、てっきり豪毅は週末の大祭における警備の体制についての相談だと思った。相手は、外宮女官司・皓子(こうし)。共に来賓を迎える立場である彼女とは、これが初めての仕事でもない。
ちょうど、こちらから出向こうと思っていたのだと言いかけた豪毅の科白は、中途半端に宙に浮いた。
「その肩書き、一日だけ貰い受けたいの」
彼女の言葉を聞いた時、「は?」と豪毅が口をOの字にしたところで無理はなかった。周囲に詰めていた副官らも、皆一様に同じ口を開けていたのだから。そんな彼らの反応すら意に介さず、淡々と皓子は話を続ける。
「勿論、タダでとは言わないわ。……実力で貰う。」
そうまで言われ、カチンと来なかったと言えば嘘になる。それに興味も湧いた。
――たとえ一日とはいえ月の宮守備隊長の座を、しかも実力で奪うと言う。なら、その力の程を、どのようにして見せてくれるのか。
反発を懐きながらも同時に豪毅が興味を持ったのが知れたのだろう。皓子は冷然たる瞳を崩さぬまま、ヒタ、と彼の眼を見据えた。
「今日から1週間で、全員。月の宮守備隊の全員から一本、取ってみせるわ」
勿論、一本勝負のみ。それは皓子の側からするなら、あまりにも分の悪い条件だった。
【続く】