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2009 *09 03 彼氏彼女の事情〔3〕

 すでに百人からいる月の宮守備隊員にしてみれば、総掛かりで一人から一本取れば良い。反面、皓子は一人ひとりから一本、合計百本をとらなければならない計算となる。内一本でも落とせば、そこで一巻の終わりだ。
続き
「……面白い。達帰、全軍招集。通常任務に就いてるヤツ以外、全員、連兵場に引っ張って来い!」
「はい!」
 豪毅の下知に従って、達帰が脱兎の如く伝令に立つ。その後ろ姿を見送って、豪毅は隙のない眼差しで皓子の顔を見つめた。淡々としているが、彼女が「喰えない女」だということは、とうの昔に知っている。数えきれぬ策と能力を隠し球に持ち、敵どころか味方さえ容易に出し抜く。その彼女が今更、『一日隊長』の座が欲しいなどということもあるまい。他に何か魂胆がある筈だ。
(が、マトモに訊いて口を割るワケもない、か……)
 そう見当つけた豪毅は内心、ペロリと舌舐めずりして腕を捲った。
 ――本当は、皓子の思惑など、どうでもいい。ただ、現行で子供世代における、雷閃唯一の愛弟子。その実力の程は見てみたい。是非に手合わせという形で。
 程なく「全員揃いました!」との連絡が達帰から入り、豪毅は顎をしゃくって皓子を連兵場に促した。
「ではまぁ、御指南いただきましょう?」
「お手柔らかに。」
 そう、嘯く表情が既に戦う者の横顔だった。

【続く】

21:40 | SS | 稲葉