log

2009 *09 07 彼氏彼女の事情〔7〕

 ――先に仕掛けたのは、豪毅だった。
続き
 この数日で、皓子の手は見せてもらった。ある程度、相手の出方を窺い、その呼吸を読んだところで隙を衝いて、一気に仕掛ける。非常に無駄がなく、一撃必殺を期した技に、幾度となく見入ったものだった。
 しかし、自分が相手をするとなった時、下手に仕掛けず睨み合いの千日手となっても面白くない。それに、相手の出方を窺って、待ちに入るような性格でもない。性に合わぬ手はすべて棄て、最初から全力で仕掛ける方法を豪毅は選んだのである。
 剣戟は、恰かも鍛冶場の如く辺りに鳴り響いた。まともに組み合えば一刀の下にへし折るも容易いサーベルが、撓りこそすれ欠けずに豪毅の剣と刃を交わしているのは、絶妙な刀捌きで掛かる力を受け流し、脇に逸らしているからだ。
 女の細腕、と侮る気持ちは毛頭、豪毅にはなかった。元より『只の女』に捌ける剣でもなければ、繰り出せる技でもなかった。その実力の程は、嫌というほど見せつけられた。それでも、
(――この一本は、穫る。)
 そう期する想いが、豪毅の腕に力を漲らせた。
 ……斬り結ぶこと百数合。見る者の頬にこそ汗が滴る程の時が過ぎ、一瞬、豪毅の手元が鈍った――と、思われた刹那、逃さず皓子の腕が翻った。

【続く】

18:29 | SS | 稲葉