カン…、と乾いた音がして宙に舞ったのは、しかし皓子の剣だった。天高く躍った刃は、弧を描いて回転しながら落下し、石畳の上に切っ先を下にして突き刺さる。
信じられぬ、といった面持ちをした皓子と、抑えていながらも口端に会心の笑みを浮かべた豪毅の表情とが、何が起こったかを如実に物語っていた。
隙を見せたと思えたのは、誘い。一定のリズムを刻むかに見える攻撃を見舞い、転調する一瞬を隙と装って誘い、防戦一方の相手が攻撃に転じる、その呼吸の変化を逆手に取って刀取りを仕掛ける。
見破られるかとヒヤヒヤしたが、こちらの手を見せていなかったハンデと、『獅子』の異名が幸いした――と、豪毅は判断した。最初から全力で仕掛けた自分が、こんなトリッキーな技を構えていたとは思わなかったのだろう。だが、これは一度きりの、まぐれに近い勝ち。同じ手は二度と使えない。
一本先取し、「下がれ。」と促す由来の言葉に従って、豪毅は控えの線まで後退する。その視線の先、対岸の控え線近くまで下がった皓子は、そこに刺さっていたサーベルの柄に手を掛け、しばし無言で佇んだ。
来る、と悟ったのは豪毅と、僅かに由良だけ。他の者が度肝を抜かれて目を瞠る中、皓子は白焔とも見紛う気炎を噴き上げ、結い上げていた髪を振り解いた。
【続く】