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2009 *09 09 彼氏彼女の事情〔9〕

 逆巻く長髪の下から顔を上げたのは、百合と見紛う美貌の女性ではなく、触れなば切れんと想わせる白皙の美丈夫であった。
続き
 身に纏っていた錘を脱ぎ捨てたように軽く四肢を払った皓子は、足元に突き刺さるサーベルを引き抜く動作で素早く空を裂き、同時に着けていた衣服を体格に合ったものに入れ替えた。
「出来れば、この姿は取りたくなかったのだけど。」
 そう呟く声からして、1オクターブほど低い。豪毅ほどではないとはいえ、充分に鍛え抜かれ引き締まった身体は先の一回りほど大きい。――両性具有と噂される皓子が、初めて衆目に晒す男性体の姿であった。
(やはり、――…)
 まだ隠し球があったか、との想いを新たにした豪毅は、しかし皓子に愚弄されたとは思わなかった。切り札とは、最後まで隠し果せてこそのもの。それを自らの力で引き出せたのなら、僥倖これに勝るものはない。
 最早、守備隊の沽券も隊長位の行方も眼中にない。この目の前の相手、その真価を余さず眼と身体に焼きつける。
「――…ォオッ!」
 低く唸った豪毅の咆哮は、
「始め。」
 由良から淡々と放たれた開始の合図に掻き消された。

【続く】

18:30 | SS | 稲葉