「それでよ、……」
数時間後、青草の褥に横たわりながら、獣態を解いて人型に戻った顎人は、腕の中で微睡む我が巫子に問いかけた。
「さっきのは、顔面に蹴りくれらんなきゃなんねぇ程のポカだったのかよ」
とっくの昔に終わったと思っていた話を蒸し返そうとする相手に、わんこ姿に戻った一成は、ぷすー、ぷすー、と、これ見よがしな狸寝入りの寝息をたて、まるで聞く耳持たずだ。そんな、いつもながらの姿を見ても、もはや顎人は溜息も出ない。
「ま、良いけどよ」
結局は、そこに落ち着く結論に、ぴるっと聞く耳震わせたわんこは、ちろっと片目だけ開けて顎人を見上げ、
「――趣味。」
と短く呟くと、再び、くーすーと狸寝入りを始めた。それには「はぁああぁ…」と情けないにも程がある溜息吐き出して、顎人は腕の中の柴わんこをギュッと抱きすくめた。こんな情れない態度をとっていてさえ、この巫子が可愛くてしょうがないのだから、病も膏に入っている。自分で判っていても、どうしようもないのだから、げに恐ろしきは恋の病だ。それでも。
「――愛してるぜ。」
呟いて頬に接吻け、ぎぅと抱き締め直すと、
「俺も。……愛してる」
少しのはにかみを宿して送り返されるキスと、人型での抱擁に、顎人は天にも昇れる気分になってしまう。我ながらお手軽だなと呆れ果てつつ、本日、何度目になるかも知れない行為の腰を上げようとした顎人に、その時、一成からストップがかかった。
【続く】