「――待った。」
欲情の欠片もない、だからこそ逆に嗜虐めいた情欲をそそる冷淡な声で「待った」をかけた一成に、顎人は唸るような歯噛みをして口端を歪める。
「待てって言われて止まると思うか?」
「――待った。」
欲情の欠片もない、だからこそ逆に嗜虐めいた情欲をそそる冷淡な声で「待った」をかけた一成に、顎人は唸るような歯噛みをして口端を歪める。
「待てって言われて止まると思うか?」
「それでよ、……」
数時間後、青草の褥に横たわりながら、獣態を解いて人型に戻った顎人は、腕の中で微睡む我が巫子に問いかけた。
「さっきのは、顔面に蹴りくれらんなきゃなんねぇ程のポカだったのかよ」
「あんま心配させてくれんなよ……」
抱擁と共に、思わず洩れた呟きは、たちまちぷーっと膨れるわんこのブーイングによって応酬された。ぷいっと膨れっ面で横を向いてしまった柴犬(小)に、顎人は黒虎姿のまま眉…にあたる部分を下げ、吃り吃り囁いた。
「さっきは、その、悪かったよ……」
……その頃、世界樹の庭では、一匹の柴犬がぷっちりぷっちりと大木の葉を毟っていた。ぷっちり、ぷっちり、と無造作に摘まれた木の葉は今や、彼の傍らにこんもりと小山を成そうとしている。そんな中、――。
「どぅわぁああぁーっ!」