灰味を帯びた黒髪を緩く肩に垂らし、茫と煙る青黒の瞳を宙に据える少女の眼に、焦点はない。それでも砦に連れて来られた当初にはまだ、取り乱し、声を荒げる程の自我はあったものを。いつの頃からか言葉少なになり、そうして青冥も知らぬうちに物言わぬ人形と成り果てた。 ……彼女の名は、
20:33 | SS | 稲葉