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2009 *06 11 トキメキ 〔42〕

「まぁ、そう思い詰めるな――…」
 軽く肩を叩かれた衝撃で青冥はハッと我に返った。彼女が自我を手放したのは、何も青冥の非情が因と限った話ではないのだからと、そう暗に物語る幻使の眼を見ても、彼の瞳の憂いが晴れることはなかった。
 今日の施術は此処までにさせて貰うと

20:36 | SS | 稲葉

2009 *06 10 トキメキ 〔41〕

 灰味を帯びた黒髪を緩く肩に垂らし、茫と煙る青黒の瞳を宙に据える少女の眼に、焦点はない。それでも砦に連れて来られた当初にはまだ、取り乱し、声を荒げる程の自我はあったものを。いつの頃からか言葉少なになり、そうして青冥も知らぬうちに物言わぬ人形と成り果てた。
 ……彼女の名は、

20:33 | SS | 稲葉

2009 *06 09 トキメキ 〔40〕

 ……同じ頃、棟を異にする砦の北翼では、二人の男が長椅子に座す少女を傍らに、顔つきあわせていた。
「済まない、青冥。これ以上は――…」

20:31 | SS | 稲葉

2009 *06 08 トキメキ 〔39〕

 さりとて二人はこの砦、しかもこの一室に、ほぼ軟禁の状態だ。日々の暮らしに不自由はないとはいえ、彼女ら好みの騒動を起こすには、執れる手段はあまりに少ない。それでも、と算段するあたりに妙な悦びすら感じ始めているのか、幽閉されてから半年以上の時が経とうというのに一向、この姉妹の性情に改善の兆しは見られないのだった。
「何か名案はあって?」

20:28 | SS | 稲葉

2009 *06 07 トキメキ 〔38〕

 白い彗星が走り去った先――その空間に、月はなかった。射羽玉の、艶やかな闇が充ちる世界。あらゆるものが茫と輪郭を滲ませ、闇に融ける影と化す。そんな場所に、その砦はあった――通称・『影砦』。
 この空間を統べるは、

20:23 | SS | 稲葉