log

2009 *09 16 彼氏彼女の事情〔16〕

 豪毅が振り解いた水縄は、細かな水滴となったあと霧散し、残らず干上がっていく。仄白く漂う蒸気の下から身を起こした豪毅は、着衣にまで気を遣う余裕がなかったのだろう、腰周りにかろうじて破れ残しの布地を纏うばかりの全裸姿で人型に戻っていた。
 しかし、そんな彼の姿から顔を背ける者はいない。

08:27 | SS | 稲葉

2009 *09 15 彼氏彼女の事情〔15〕

 危惧していた仕掛けは、すぐに発動した。豪毅の周りに纏わりつく光球を焦点に、彼が踏む足下の石畳を剥がす勢いで銀竹が突き出して来る。たちまち脆くなる足下にも、しかし歩みを掬われることなく豪毅は、皓子の跳ねるすぐ後を駆け抜けて行った。
 目標を捉え損ねた銀竹は、

08:26 | SS | 稲葉

2009 *09 14 彼氏彼女の事情〔14〕

 皓子の詠唱が終わる前に、なんとしてもその咒を止める。そう意図して踏み込んだ豪毅の放つ斬撃は、しかし虚しく空を切った。半眼を閉じ、完全にトランス状態にあると思われた皓子は、そのままの姿で軽やかに後退し、豪毅の刃を避けて尚も詠唱を続ける。
 恐らく豪毅に悟られた時点で、既に

18:37 | SS | 稲葉

2009 *09 13 彼氏彼女の事情〔13〕

 昼の休憩を挟んで始められた、3戦目。どこから聞きつけたものか、守備隊以外の観衆も増えていたが、そんなことは向かい合う二人にとって、関係のない話だった。中天からやや
西に外れ、黄味を帯びた陽の下で、佇む影が色濃く落ちる。
「――始め。」

18:36 | SS | 稲葉

2009 *09 12 彼氏彼女の事情〔12〕

 一合、二合と切り結ぶ、剣戟の音が響き渡る。豪毅の気塊が捉えたと想った皓子は残像。
先に雷光に似せた火球を放った時点で、

18:34 | SS | 稲葉